横溝が終戦の明くる年に発表した長篇推理小説。作者は昭和20年に岡山県吉備郡岡田村に疎開していたので、そこを舞台にしている。小説はまだ戦中の設定。江戸時代には参勤交代時に本陣となったという田舎の旧家で、長男が結婚式を挙げた。その夜、新郎新婦が惨殺された。犯人はどこから逃げたのか。日本家屋の密室殺人というので注目された小説である。
大人になって読み返してみると、あまりの設定の非現実さに呆れてしまう。このトリックを聞いて(或いは映画化されているので、視覚的に確かめて)現実に可能と思うか。推理小説好きはそういった現実可能性などは考えない。理屈が通っているか、だけが基準なのである。それで楽しんでいるのだろう。こんなトリックが実現するとは、毎年宝くじを1枚ずつ買ってそれが毎年1臆円以上当たる可能性より低い。
更に輪をかけてひどいのがその動機である。いくら戦前の田舎だからと言って殺人までするか。自殺までするか。しかもそれを芝居じみた、というより全く芝居にしてあっと驚かせようとするのである。更にご都合主義の極みになって協力する人間まで出して殺人が行なわれるのである。こんな子供だましについていける人は、超人的に忍耐力が強いのだろうか。子供か、今まで述べた仕組みを受け入れられる推理小説好きであろう。そういう推理小説好きでない者は対象外なのである。その対象外の者による感想である。
本作は昭和50年に映画化されている(高林陽一監督、中尾彬が金田一役)が、時代を撮影当時にしているので、犯罪動機について原作以上にくどく弁解的な説明をしている。さすがに映画作成者たちもこの動機にはついていけないと思ったのだろう。
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