現代音楽史の本はあまりない。新書という形でその間隙を埋める本書は歓迎される。本書に『現代音楽史』とある(解説p.267)のは柴田南雄の『西洋音楽史 印象派以後』だろうが、これは現代音楽史の定番だったし、また吉田秀和の『20世紀の音楽』(岩波新書)も以前読んだ。いずれも20世紀半ばないし後半に書かれた20世紀前半の音楽を主な対象とする。だからまさに現代音楽を対象としていたのである。
しかし現在では20世紀前半など百年も昔である。現代音楽史は20世紀になってからの新様式の出現という一つの基準があり、それに則って本書も記述が始まる。ただストラヴィンスキーの『春の祭典』初演時のスキャンダルなど現在では誰でも知っており、またシェーンベルクの弦楽四重奏曲第2番の初演も非難の嵐だったとは知っていた。どうせ書くのなら、なぜ当時スキャンダルになったかの理由を詳しく知りたい。もちろん従来の音楽と全く異なったものだったからという一般的な理由は分かるが、それ以外の当時の事情である。従来と異なっているからといって、いつもスキャンダルになるわけではない。ストラヴィンスキーもシェーンベルクも現代では完全にクラシック音楽として鑑賞されている。『春の祭典』など最も有名なクラシック音楽の一つとなっている。正直なところ、21世紀に書く現代音楽史は第二次世界大戦後の音楽を対象とすればいいのではないか。
更に本書では20世紀以降の音楽伝達媒体の発展が書いてあるが、技術の変化それ自体を書く必要はあるのだろうか。ピアノはモーツァルト、ベートーヴェン、それ以降進化していったが、音楽史にそんな事情が詳しく書いてあったか。
ファシズムが音楽に与えた影響が書いてある。つまり音楽が政治に翻弄された記録である。社会や政治の変動が主で、音楽はそれに対応して変わっていく、これが現代音楽の大きな特徴らしい。1968年という世界的に学生運動が高揚した年(ウッドストックは翌年)、これを重要年としている。何も知らない未成年の学生相手では現代史を話していればそれですむかもしれないが、音楽に重点を置いた話を聞きたく思う。面白いのは第7章で新ロマン主義とあらたなアカデミズムと題し、調性等の復活が書いてある。ちょっと聞くとこれが音楽?というのが現代音楽と思っていたが、やはり回帰はあるらしい。
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