私立探偵ファイロ・ヴァンスが活躍するヴァン・ダインの推理小説第7作である。ヴァン・ダインの推理小説は中学時代から高校にかけて読んだ懐かしい作品である。当時、創元推理文庫の解説者がファイロ・ヴァンス物は最初の6編が傑作だが、残りの作品は駄作だと言わんばかりに書いてあった。それを読んで最初の6編しか若い時には読んでいない。ただ今思うと解説者はかなり偏ったというか、自分の好みを押し付ける風であり、大人になってから思うとあまり感心できない評論家である。 そのファイロ・ヴァンス物の第6作はかなり趣向が変わっており、一見怪奇風、空想風である。マンハッタンのはずれか、壮大な屋敷敷地で事件が起こる。そこにあるプールに飛び込んだ男が行方不明になってしまうのである。一体どこへ失せたか。この地には竜が住むという伝説があり、屋敷の老婦人は固く信じて疑わない。結局惨殺された死体が見つかる。しかもその後も同様の惨劇が繰り返されるのである。最終的な謎解きは一般的に推理小説がそうであるようにあまり現実的でない。謎が現実的でないと言ったら、ほとんどの推理小説があてはまるだろう。謎解きは他の推理小説と同様、感心しないが、ずいぶん変わった話の展開で飽きさせない。読む価値はある。(井上勇訳、創元推理文庫、1960年)
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