この訳書の原著は2008年に出版されているが、内容は1905年から1906年にヨーロッパ人が世界一周をした記録とその際の写真である。世界一周をしたのはドイツ人のワルデマール・アベグ、1873年生まれというから30歳を少し過ぎてからの旅行である。写真はその際に撮ったもので、一部は着色されている。文を書いたのはフランス人のマルタンで、アベグの回想録を基に仕上げた。
期間は1905年からなので、日露戦争が終わった年にあたる。アベグは当時、多くの欧州人が東回りで世界一周を試みたのに対し、西回りの航路をとった。欧州を出てからアメリカ、ハワイを周り、アジアに着く。日本、朝鮮、中国、シンガポール、インドネシア、インド、セイロンを経て帰国の途に就いた。
まずこの旅行記を読んで驚くのは、20世紀初頭という時期ながら、旅行者アベグがアジア及びそこに住む人間に対して極めて好意的な態度、価値観を持っているところである。西洋の現状に批判的だったためか。見知らぬ異国は理想化しやすい。日本の西洋への憧れを想起すればよい。何しろ昔(今でもか)の西洋人はアジアを含む有色人種に対して見下していたという印象がある。人それぞれなのである。このアベグは日本をいたく気に入り、四か月滞在した。日本に来て心を奪われた小泉八雲などと通じるところがある。写真もアメリカと並んで多い。ともかく西洋人がこのように日本を称賛する文を読めば日本人として嬉しい。ただこれも一つの例である。
数少ない見聞から日本人とは、中国人とは、アメリカ人とは、などと一般化して論じているのを少なからず見かける。それもあらかじめの意見、偏見に沿った見方や解釈が結構ある。
本書の意見、見方が西洋人の代表とは思わないが、日本を良く言っていて悪い気分にならないから読む価値はある。
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