終戦の明くる年、雑誌に発表された坂口安吾の評論。敗戦ですっかり世の中が変わり、価値観が見つけがたくなっている時期に、堕落を堕ちきり、それによって正しい道を見つけるべきだと説く。特攻崩れが闇屋になり、戦争未亡人が新しい男を見つける。これらを嘆かわしいと思うのは間違いで、それが人間の本性だ。とことん堕ちてこそ新しい道が開けるという主張である。
敗戦まで国家、軍によって押し付けられていた道徳、義務の意味がなくなった時に、何を生き方の指針とするのか。堕落した世を嘆いている風潮に頂門の一針となったらしい。
つくづく思うのは、終戦直後の混乱期だったからこそ、高く評価されたのだろう。論は話題になった時が大いに関係する場合がある。本論はまさにその典型である。歴史的文書と言っていいだろう。
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