2022年3月29日火曜日

『加賀乙彦自伝』集英社 2013

小説家の加賀乙彦による自伝。まず当時の最近の出来事である、妻の死から東北の震災などの経験を語り、死が近づいてきたという自覚を持って自伝を書く気になったとある。

昭和4年東京に生まれた。最初の記憶は226事件とあり、陸軍幼年学校に入る。後、東大医学部に進む。精神医学を学び、戦後のセツルメント運動に従事した。フランス留学試験に一発で合格し、フランスで精神医学の修業をする。戻って来てから医者として勤める傍ら、文学への関心は深まる。上智大学で教鞭をとっていたが、50歳の時、小説執筆に専念するため辞職する。50歳代末に妻と共にキリスト教の洗礼を受ける。

小説執筆は若い時からしており、当時の文学仲間との交流が書いてある。驚いたのは、仲間から日本の小説であれば自然主義、私小説でなければだめだと説教されたと言う。加賀は長編小説志向だったからだ。自然主義、私小説が日本の近代文学の主流みたいなことが文学史の類に書いてあったが、人気があって読まれていたのは漱石や潤一郎であり、鴎外も高く評価され、いずれも私小説作家でない。私小説なんて読んでみると、ただただ退屈だった。面白くないから高尚なのだという理屈でもあったのか。この一節を読んで、文学を執筆する側は、実際に私小説を高く評価する者がいたと知った。

読み易い自伝である。これは聞き手がいて、加賀の回答部分だけを文字にしたからである。しかしながら頂けないのは、文の最後にところどころ(笑)とある点である。インターネットの影響だろうか、軽薄な感じがする。面白いかどうかは読み手が判断する。

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