大正7年に刊行された『学生時代』に収められている短篇である。語り手は旧制高校の一高を受ける男である。一高は第一高等学校で東大教養学部の前身。当時の実質的な大学受験である。去年合格できず浪人して今年受験し直す。当時は7月受験、9月入学であったようである。語り手は田舎に住み、受験のため結構早く上京する。東京の親戚宅で受験勉強する。そこのお嬢さんが、語り手が恋している相手である。弟も後から上京してくる。浪人したので同じ一高を共に受けるのである。同じ部屋で受験勉強するのもと思い、友人のいる寺に移る。入試を受けた。結果はどうであったか。
百年も前の作なのに、ここで描かれる受験勉強模様は今とあまり変わらない。実際に本作のように受験そのものを主題にした小説もあまりない。この語り手に共感を得る者もいれば、全く自分と正反対で馬鹿にしか見えないと思う者もいるだろう。語り手は勉強の必要を感じるものの、毎日たいして何もせず過ごす。ずいぶん同じような受験仲間が多く、有名学校受験なのに勉強しない。他の者が勉強しないのをみて安心する語り手である。もう一つに大きな主題である恋愛の方は、語り手は自信家らしい。自分の好きな相手も自分を好きなはずだと思い込んでいるようである。
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