2021年5月26日水曜日

橋本幸士『物理学者のすごい思考法』インターナショナル新書 2021

物理学者の著者が日常生活や社会について、科学者の立場で見たり解釈したりする文を集めたエッセイ集。例えば、エスカレーターの並び方、数字を見るとそこに何かがあると考える、スーパーを歩く経路の分析、更には物理学者にいかに奇人変人が多いか、等々科学者ならではの視点が分かって面白い。

科学者特有の思考法を読んでいるうちに、経済学がまさにこれと同じ方法で経済を分析していると思いついた。もちろんここは経済学の話が書いてあるわけではない。著者もそんな気は全くないだろう。ただ抽象的な考え方の類似である。つまり世の中の経済現象を科学的に捕え、分析していくという方法である。経済の場合は毎日経験しているので、抽象的に見なして分析する経済学は、道具に過ぎないモデルを経済学者は現実をそう思っていると解釈され、評判が悪い。物理学で類似を捜すと、本書にも書いてある牛を球だとするなどがその例で、そもそも知っている人は少ない。

具体的な章、初めのエスカレーターの並び方について私見を述べる。本書では片側だけ立つより二人並んだ方が沢山さばける、それも高速にすれば早く着けると書いてある。

著者は1973年の生まれだそうで、当時の東京のエスカレーターは乗る人の勝手で二人の場合は並んで立つのが普通だった。そうすると早く着きたい人が、上るなり下ったりしていると二人並んでいる手前で、止まる。エスカレーターは止まっている方が優先するという考えが共有されていたのである。なぜそうなるかという疑問を、有名な大学の先生が新聞のコラムに書いていた。急いでいる者をなぜ優先的に通してやらないのか。この頃の交通の標語で「そんなに急いでどこに行く」というのがあった。急がないと親の死に目に会えないかもしれないのに、事情を知らない赤の他人の余計なお説教に聞こえた。そのうちに片側に立つという習慣が生まれ、急いでいる人を通してやれるようになった。それから50年経った。最近では別の見方が出ているようである。一つは上り下りを駆けて事故が起こるおそれ。もう一つは本書にあるように、立つ側に長い行列ができる場合が生じる。後、高速化にする案は今の日本のような高齢社会では高齢者にやさしくない、問題だと批判が出てきそうである。著者がいかにも若い人だと感じた次第。

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