少女ネルが祖父と共に債権者に追われ、骨董店の我が家を後にし、放浪の旅に出る、が大筋。
もちろん、こうした長篇小説の常として、脇役やネル道中以外の話が色々面白い。悪漢クィルプの造形、少年キットの他、女性ではサムソン兄妹の妹、「侯爵夫人」のあだ名を持つ女中を初め多くの登場人物が作品を彩る。
主人公ネルは純情可憐、善意、忍耐を絵にかいたような、ディケンズの小説にしばしば登場する肯定的人格である。発表当時、ネルの不幸は世上に血涙を絞らせたが、現在では非現実的に見える、精彩がないとして、ネルは全く評価されていない。しかし登場人物それだけを抜き出して云々しても構わないが、やはり作品全体の中で見るべきであろう。より個性的な人物と比較して面白味がなかったり、現実味が薄いのは確かだが、いうほど悪いとは思われない。それにしても、かつてはネルのような人物が求められ、感傷的お涙頂戴的が望まれたのに、いつからこのような感傷的=通俗的=芸術的でないという価値観に変わったのであろうか。
北川悌二訳、三笠書房、1973年
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