原作は昭和3年、朝日新聞に連載された。犯罪小説の一つである。
主人公の作家は放埓な生活を送っている。悪魔主義の作家として、いつも小説で妻を殺しているので妻は逃げてしまった。今書いている小説もモデルがいる。知り合いの編集者である。その男を作家が殺すという話である。つい本人と同じような名前をつけてしまった。それを後から気づき、その編集者が読まないかと心配になってくる。
更に次のような妄想とも言える心配をするようになる。もしかするとこの小説の読者でモデルが誰かが分かれば、小説にならって実際にその編集者を殺すのではないか。その容疑は作中の犯人のモデルである作家自身にかかるから自分は安全と思って。
一方で自分を担当する編集者を騙して巻き上げたカネで銀座へ遊びに行く。そこで西洋風の雰囲気の女に会い、横浜本牧の彼女の家まで行く。愛人契約をして持っていたカネを全部とられる。ドイツ人と結婚していたこともある文字通り妖婦で、男を手玉に取る才能にたけ、主人公も翻弄される。
這う這うの体で家に帰るとなんと自分が心配していた、あの編集者が殺されていたと知る。それ以来原稿取りに汲々していた、担当の編集者をはじめ周りの者が作家を敬遠するようになる。自分を犯人と疑っているのではないか。そのアリバイ証明はあの妖婦である。約束の時間に行っても会えない。
刑事が家にやってくる。やはり彼に容疑がかかっていたのだ。
小説としては設定等に無理があるように思え、傑作とは言い難いのだろう。文庫に収録されたことはなく、あまり有名でない小説である。
以前読み、妙に記憶に残っていた。今回の読み直しで以前ほど感心はしなかったものの、谷崎自身がモデルであるような主人公の作家や、編集者とのやり取りは実際の体験を基にしているのではないかと思わせ、そういう意味でも一読の価値がある。
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