2018年11月15日木曜日

黒い潮 昭和29年

山村聰監督、日活、113分、白黒映画。主演も山村聰。

下山事件をベースにして新聞社記者の報道姿勢を描く。映画は夜、線路に立っている男が汽車に轢かれる場面から始まる。行方不明となっていた国鉄総裁秋山の死体が発見されたと、新聞社の山村のところへ連絡が入る。雨の中、現場へ急行する。
明くる日の報道現場、他殺でないかと憶測が大勢を占めるなか、責任者の山村は詳細がまだ不明とし、どちらともつかない中立的な報道をする。しかし他殺と断定した他社の報道と比べ印象が弱く、大勢と異なる。新聞社首脳も苦言を呈する。

山村がこのようにあくまで憶測記事を避けるのには自らの体験があった。十数年前、自分の妻が芸能人と心中した。その際、興味本位の煽情的な報道にいたく傷ついた。
山村がその信念を貫こうとしても、自殺他殺を決める決定的な事実、証拠は出ない。鑑定では他殺につながる結果となり、生きている総裁を見たという証言は自殺説を裏付ける。どちらか分からない以上、他殺説の方が無難と同じ社の記者も言う。

事件の報道と並行して、山村の知り合いの教授の娘、津島恵子との再婚話も進んでいく。
自殺と警察が発表するとの情報を、いち早く入手した部下の記者にスクープ記事を書かせる。しかしその記事が出た後、公表は中止になる。
その晩津島に会い、その気になっている津島に、自分はまだかつての妻を愛していると告げる。山村は九州へ左遷される。

原作の井上靖の小説『黯い潮』は事件の翌年、昭和25年に発表された。この映画は事件の5年後で、事件まもない頃の映画である。井上靖が勤めていた毎日新聞は自殺説を主張していた。この映画は毎日新聞の協力を得、その編集現場のセット、また当時の有楽町の社屋屋上が何回も出てくる。

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