経済学では標準的な仕組みが出来上がっており、これの高度な大学院レベルになると習得だけでも並大抵でできるわけでない。従って標準的な理論に対抗しようとすれば、これまでの経済学を高い水準まで習得して初めて、論理的説得的に体系を構築していく必要がある。単なる世界観の違いを述べていればいいわけでない。
岩井はMITの大学院へ行って当時の最高の経済学者であるサムエルソンやソローの助手にも選ばれ、その後バークレイやエール大学の教師になっている。まさにエリートとして歩んでいたわけである。
しかし彼の関心が主流派経済学への疑問となり、その研究に全力を傾ける。業績として必要な論文を出さず、長年かけて研究の成果である不均衡動学の著書を発刊するものの学界からは冷遇された。著者が大学院時代に自分の研究者生活の頂点を迎え、その後は没落の歴史であったと自虐するのは、主流派経済学の序列の中で登って行けなかったことを言う。
日本へ戻ってからは資本主義の利潤がどのようにして発生するか、貨幣の根源的な仕組みは何か、また会社組織はどう捉えるべきかなどの問題について研究し、その成果がわかりやすく述べられている。
主流派経済学の本流を歩まず、自ら精力を傾けた研究もその本場のアメリカで評価してもらえず、米の一流大学の教授になれなかったのは学者としては無念極まりないことであった。ただ従来の経済学の標準的枠組みに挑んで戦ったのは敬服に値する。
日本経済新聞社
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