2015年8月24日月曜日

小島政二郎『眼中の人』 昭和17年

芥川龍之介や菊池寛と親交のあった作家の、若き日の自伝小説である。

今、小島政二郎という名はどれ位、覚えられているのであろうか。大正時代から作家生活を始め、一時期は大衆作家として非常に有名であったとか。戦後も芥川賞や直木賞の委員を務めたり、食道楽の随筆が有名になったときもあると言う。

19世紀の終わりに東京の下町に生まれた著者は小説家を志し、『羅生門』で感激した芥川に兄事というか親交を求めるようになる。同時期、菊池も新進作家として注目を浴びるようになる。
 
著者と芥川は東京出身で馬が合ったこともあろうが、四国出身の菊池のやること、行動方針は江戸っ子の著者から見るとあまりに東京風と異なる。東京出身者に見られる自らの出自を誇り田舎風を見下す傾向のせいか、菊池を色々批判する。

著者は人に合わせて生きてきたと述べるが、自らの信念には随分頑固である。文学に対する考え方など青臭いといえるが、いかにも青年らしい。ただ理論や信念だけで文学をものせるものでない。
この著書では菊池に比較的多くのページが割かれ、彼に反発していた時代から圧倒されるまでに至る様子がわかる。

大正文学史としての資料の価値もあるようだ。ただし著者が長編小説と断っているように、第二次世界大戦戦中になってから、大正以前を振り返った自伝小説なので脚色等もあろう。もちろん過去に対する解釈は常に主観的なものである。
岩波文庫1995

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