語り手は僧侶で、聖職者になる儀式を教会で行なう時に、美女クラリモンドを見染める。クラリモンドの虜になるが、僧侶となった身分では一緒になるわけにいかない。赴任先で、クラリモンドが娼婦で惑わす女と知るが、恋の悩みは募るだけである。夢かうつつか、語り手はクラリモンドと相まみえ、溺れていく。師のいさめでようやく最後にクラリモンドと離れ破滅を免れる。(芥川龍之介訳)
2024年7月31日水曜日
2024年7月30日火曜日
ゴーゴリ『ヴィイ』 Vii 1835
ゴーゴリの短篇集『ミルゴロド』に収録されている怪奇小説。同集には他に『昔気質の地主たち』『タラス・ブーリバ』『イワンとイワンが喧嘩した話』が入っている。
神学校の哲学級生(といってもいい歳の青年である)は、帰郷の際、美女に会う。後にそれがコサックの長の娘で、死んだのだがその際、死んだらその哲学級生に一晩お祈りをしてほしいと頼んだという。これには哲学級生は仰天するが、断り切れず、死棺の傍で過ごすことになる。すると夜、閉じられた堂で、死体が起き上がり歩いてくるという恐怖の体験をする。それを何夜か繰り返し、最後には哲学級生は死ぬ。(小平武訳)
Miss スパイ 魅影狂花 2022
ジェフリー・シュー監督、中国、82分。戦前、中国を軍閥などが割拠し、日本の侵攻もあった時代。主人公が婚約者と歩いている時、近くで姉が殺されるのを目撃する。婚約者が飛び出して防ごうとするが姉は殺される。誰が殺したか、主人公は探ろうとする。悪徳将軍の手になるらしい。秘密組織に入る。女ばかりの暗殺者の軍団である。訓練を受ける。
最初の命令で他の仲間と目的の館に向かう。するとそこに姉の殺害首謀者の将軍がいた。銃で狙うが外れる。主人公は脱出するが、当初の目的は果たせず終いである。次の使命の時、主人公は元婚約者と出くわす。驚く婚約者は説明を求めようとするが、主人公の仲間は秘密がばれるのを恐れ、婚約者を殺そうとする。その時、別の仲間が仲間二人を殺す。これで秘密がばれないと主人公に言う。婚約者を助けるため、仲間二人を殺したのである。次の使命で、主人公も入れて残った二人の暗殺者は死んだ仲間の顔を借りて変装して乗り込む。あの将軍宅である。ここで仲間は殺されるが、主人公は復讐を果たし宝物の鍵になる品物を持ってくる。暗殺軍団の上司に渡す。
実はその上司こそ、主人公の姉を殺した犯人と分かる。姉と上司は仲間同士で、姉は敵にばれたので殺したという。上司は宝物を持って日本に行くという。主人公と上司の戦いはその場だけでなく、宝物のある洞窟のような場所でも続く。上司はそこに閉じ込められ、主人公は婚約者とよりを戻す。
2024年7月28日日曜日
ブルワー=リットン『幽霊屋敷』 The haunted and the haunters or The house and brain 1859
ブルワー=リットンの『幽霊屋敷』は幽霊屋敷物の古典。幽霊が出ると評判の屋敷で、語り手は若い下男と共に一夜を過ごす。下男は怖くなって逃げ出す。原因を突き止め、いわば謎解きのような部分もある。恐怖小説としては異例であろう。
本編は岡本綺堂の訳では『貸家』(世界怪談名作集)である。本邦初訳の題は『開巻驚奇 龍動鬼談』という凄いもので明治13年に出た。筑摩書房の明治文学全集の明治翻訳文学集か、学研M文庫伝奇ノ匣7『ゴシック名訳集成西洋伝奇物語』に入っている。本編は平井呈一訳。
2024年7月25日木曜日
渡辺浩『日本思想史と現在』筑摩書房 2024
著者は東大教授を勤めた政治思想史家。以下が大まかな目次である。
Iその通念に異議を唱える/II日本思想史で考える/III面白い本をお勧めする/IV思想史を楽しむ/V丸山眞男を紹介する/VI挨拶と宣伝
著者のこれまでの論文や紹介文等の集成である。中には雑文のようなものもあり、著者の専門である思想史の観点から考察した論文もある。この中で個人的に面白いと思ったのはIV「思想史を楽しむ」にある「マックス・ヴェーバーに関する三つの疑問」である。三つの疑問とはまず、ウェーバーの儒教理解である。儒教は宗教と言えるかなどウェーバーの中国理解の問題、次はジェンダーで、ウェーバーは女をまともに評価していなかった、第三は妥協とユーモアと題され、ウェーバーの融通性の無さ、ユーモアの欠如を述べている。ウェーバーと言えばわが国ではマルクスと並ぶ権威とされていると思うが、そのウェーバーを俗な言い方をするとこてんこてんにやっつけている。ウェーバー信奉者の意見を聞きたいものだ。
あとIII「面白い本をお勧めする」の最後にある「おすすめ図書五冊」で、挙げられているのは、スピノザ『神学・政治論』、荻生徂徠『政談』、オースティン『高慢と偏見』、トクヴィル『アメリカのデモクラシー』、福沢諭吉『福翁自伝』である。勧める、勧めない訳書名も書いてある。このうちオースティン以外は、政治学者なら挙げておかしくない、
2024年7月24日水曜日
ジェイン・オースティン『ノーサンガー僧院』 Northanger abbey 1817
小説の完成は1803年であるが、出版は没後の1817年となった。前半のあらすじは次の様である。
主人公キャサリン・モーランドは幼い頃は可愛くなかったが、成長して美しくなった。と言ってもまだ二十歳前である。キャサリンは田舎の牧師の娘であり、近所の夫妻と温泉保養地として有名なバースに行く。ここでイザベラ・ソープと知り合い仲良くなるが、その兄ジョンにしつこく付きまとわれ閉口する。この地にやって来たヘンリー・ティルニーに憧れる。父親の将軍も知る。ティルニー家の邸に来ないかと誘われ狂喜する。
その邸が題名になっているNorthanger abbeyである。abbeyとは昔僧院などで、今は個人の邸宅等に使われている古い館を指す。例えばロンドンにあるウェストミンスター寺院の英語名はWestminster abbeyである。キャサリンが喜んだのは、ゴシック小説の愛好家で、小説で読んで憧れている古い城館に、ティルニー家の邸がそのままだと思い込んでいるからである。本作は18世紀の末から書き始められたが、当時はゴシック小説が大流行していたのである。特に1794年に出されたアン・ラドクリフの『ユドルフォ城の怪奇』は大ベストセラーで、本作にもこの小説についてキャサリンとヘンリーが語り合う場面がある。長い馬車の旅を経、ノーサンガーアビーに着くのだが。
実は本作は『ユドルフォ城の怪奇』の戯画化というかパロディと言ってよい記述が多く出てきて、『ユドルフォ城の怪奇』の既読者は笑ってしまう。出来るなら本作を読む前に『ユドルフォ城の怪奇』を読むといい。余計面白くなる。今では邦訳が出ている。もちろん主要な部分はオースティン流の恋愛小説であり、初期の作品ながらさすがオースティン作だと思わせる。(ちくま文庫、2009)
2024年7月23日火曜日
ユドルフォ城の怪奇 The mysteries of Udolpho 1794
アン・ラドクリフが1794年に公表したゴシック小説の代表作。ウォルポール『オトラント城奇譚』(1764)、ルイス『修道僧』(1796)と並び称せられる。
主人公エミリー・サントベールの苦難に満ちた遍歴、出会うmysteriesが語られる。原題にあるmysteryを今の日本では、片仮名表記して推理小説及びその類似の作品を言うようであるが、mysteryとは謎と神秘という似ているが互換的でない概念を含む。理解できない不思議な事柄といった意味か。非常に長大な小説であり、自分で鑑賞してもらいたいが、読む気はないがどんな内容か知りたい人もいるだろう。以下、自分なりの要約を書く。小説についての自分の理解は下の評に書きたいと思っている。
16世紀、南仏ガスコーニュの館に住むサントベールには妻と娘がいた。娘エミリーは両親に愛情深く育てられ、清純な乙女に育った。まず母が死に、父親のサントベールも旅の途中で死ぬ。エミリーは深い悲しみにくれるが、旅で出会った青年ヴァランクールに惹かれ、相思の間柄となる。サントベールが死んだのでエミリーの養育権は父の妹マダム・シェロンに託される。この叔母は自分勝手で欲の権化だった。エミリーとヴァランクールの付き合いを快く思っていなかったが、後にヴァランクールが良い家柄と知ると、二人の結婚を勧めるようになる。
モントーニというイタリア人が来て、叔母に求婚する。叔母は承諾し、結婚してマダム・モントーニとなる。姪にもより良い縁組を希むようになり、ヴァランクールとの婚約を後悔する。相手方もエミリーのものとなる財産がマダム・モントーニに属するのでエミリーとの結婚を望まないようになる。エミリーとヴァランクールの婚約は破棄される。モントーニがイタリアに帰るので、妻となった叔母はエミリーを連れていく。ヴァランクールとエミリーは悲しむが、エミリーは駆け落ちなどはせず、叔母についていく。ヴェネツィアのモントーニの館に落ち着くが、モントーニは後ろ暗いところがあるらしい。ここでエミリーはそこの伯爵に惚れられ、求婚される。ヴァランクールしか心にないエミリーは断るが相手は全く諦めない。モントーニは悪事に加え、懐具合が悪いようである。ヴェネツィアから逃げ出し、アペンニーノ山脈にある自分の城、ユドルフォ城に向かう。侍女アネットに言わせると巨大な牢獄といった感じの城である。モントーニは自分の妻となった叔母に、フランスの屋敷の権利を自分に寄こせと脅迫する。叔母は拒絶しモントーニと喧嘩し迫害され、最後には死ぬ。エミリーは城で様々な恐怖、不思議な体験をする。ユドルフォ城にフランスの兵士が囚われていて、その中にヴァランクールがいるのではないかと思うようになる。侍女などに誰が囚われているか探るよう命じる。モントーニには敵との戦いがあってエミリーは一時、他の場所に連れていかれる。最終的にヴァランクールはいないと知る。この城から仲間と抜け出す。船でフランスに向かう。
地中海に面したルブラン城にはヴィルフォール伯爵とその娘ブランシュ他が住んでいた。エミリーらの乗った船はこの沖で難破し、伯爵家に救助される。ブランシュはエミリーと仲良くなる。これ以降、ルブラン城の怪奇といった話になる。この城はエミリーにとって初めての城でない。父サントベールが客死する前にこの城の前に来て、当時は主はおらず、ただ父の神経は異様に高ぶった。その後近くの修道院で父は死ぬ。エミリーは当時そこにいたので、修道院を再訪し、かつての知り合いである修道女らに再会する。そのうち一人の修道女からエミリーは自分の出生に関係している可能性のある話を聞く。ルブラン城には昔の城主の妻の肖像画があるのだが、エミリーにそっくりなのである。その妻は城主を愛しておらず、他の男を愛していたという。まるでエミリーの父親とその城主の妻との間に、エミリーが生まれたのではないかと疑わせるような話である。今の城主ヴィルフォール伯爵はヴァランクールを知っていた。しかし全く評価せず、唾棄すべき男であるというのである。ヴァランクールはパリで賭博に溺れ、更に悪事を働き牢獄にも入っていたという。エミリーは驚愕する。ヴィルフォール伯爵の息子はヴァランクールと旧友で、息子まで悪事に引き込まれそうになったと言い、ヴァランクールを憎悪しているのである。ルブラン城でエミリーはいきなりヴァランクールに再会する。息子の知り合いなので。この際、エミリーは伯爵から聞いた話でヴァランクールが信じられなくなり、ヴァランクールも自分の罪を認めるのである。これではもうヴァランクールと別れるしかない。悲痛な思いでエミリーはヴァランクールと離れざるを得なくなる。モントーニが死んだという便りが来る。
これ以降は小説は最終段階になり、まだ解き明かされていなかった謎、事情が分かるようになる。例えばユドルフォ城でエミリーが黒いベールを取って恐怖のあまり気絶したという、ジェイン・オースティンの『ノーサンガー僧院』にも引用されているまだ解明されていなかった謎、エミリーの出生すなわち前の城主夫人との関係、不思議な音楽の謎、ヴァランクールとはどうなるのか、といった点などが明らかになっていく。ネタバレだから書かないというより長く書いたし、くたびれたから要約はこの辺で止める。


