2023年10月19日木曜日

須賀敦子『ミラノ 霧の風景』白水Uブックス 2001

1985年から1989年に発表した文が元になっている。著者はイタリア語の専門家。昭和4年に生まれ、70歳になる前に亡くなっている。

著者が24歳、昭和28年に欧州に留学。初めフランスに向かったが、あまりなじめずイタリアに移り、結果的にそこに13年住み、イタリア人と結婚した。夫は早く亡くなり、日本に帰ってからイタリア語の教師、イタリア文学の翻訳をした。在伊時代には日本文学の翻訳をしたという。イタリア時代の出版界事情やイタリアの文学者についての記述が多い。日本では知られてない文学者の名がよく出てくる。

何しろ昭和28年に渡欧したというが、当時は普通の日本人にとって海外旅行でさえ、ほとんど不可能だった時代である。占領時代が終わってからは、外人に会うことさえ稀な時代が日本では長く続いた。映画やテレビ放映が開始されてからはそういう媒体でしか西洋人を見られなかった。文学や芸術などでヨーロッパはただただ憧れの対象であった。その時代にイタリアに住むなどは今の感覚では想像も出来ない。

向こうの友人間でその本性を見たと思った体験が書いてあるが、東洋の全く異質な外国人を向こうの人間がどう見ていたか、それは個人差があるし、著者個人の人間性も関係してくるだろうが、霧に包まれて訳の分からない世界に思えてくる。

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