2023年10月14日土曜日

都留重人『アメリカ遊学記』岩波新書 昭和25年

戦後の経済学者の中でも有名であろう、都留重人の若き日のアメリカ遊学記である。著者は明治45年生まれ、昭和6年に渡米し、17年に帰国した。19歳で渡り、11年滞米し30歳の時に戻ってきたわけである。

初めはドイツに留学するつもりであった。ヒトラーが政権を取り、一時滞在のつもりのアメリカに長期いることになった。ウィスコンシン州のローレンス・カレッジというところで勉強し、後にハーヴァード大学に入った。本書を読むと著者はかなり意志が強いというか、勧められても嫌なことはしない、悪く言えば頑固だったようだ。学者にはそういう資質は必要なのだろう。アメリカに来た以上、勉強だけなら日本でも出来る、アメリカの文化に親しむべきという恩師の助言にも従わなかった。

2年間ウィスコンシンにいて、ハーヴァードに移ってから経済学の勉強を始める。当時の日本人らしく日本にいた時にマルクスを読んでいたので、古典派経済学を俗流経済学だと思っていて勉強しなかった。これが後に災いした。また経済学の教授が自分の講義は商品だと言ったので、憤慨したと書いてある。これなども経済学と無縁の人の発想である。大学院で同期だったサムエルソン、また当時のハーヴァードの教授であったシュンペーターについて書いてある。滞米中に真珠湾攻撃があった。日系人の収容などは有名だが、そういった記述はなく都留は全く差別を受けなかったと書いている。最後の章にアメリカ人論がある。よく言われるアメリカ人論だが、極めて高く評価している。今ではよく知られている、西洋人が釣りの勘定で引き算でなく、足し算で行なう点についても引き算が出来ないからでなく、客に対する親切心からしているのだと説明している。本書の出版は昭和25年である。敗戦国の日本は日本人が劣等であると進駐軍から叩き込まれ、アメリカがこの上なく立派な国家に見えた当時である。そういった時代の影響もあるかもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿