2023年8月14日月曜日

ウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』 Caleb Williams 1794

著者はフランス革命時代のイギリスの思想家。革命に共鳴した進歩派。本書は後半の逃亡劇等から犯罪小説のはしりとも見られている。そういった見方が出来るものの、著者の社会に対する批判、考えが反映されている小説である。

語り手は書名になっているケイレブ・ウィリアムズという青年である。ある主人に仕える。非常に高潔な人格と見なされているが、暗いところがある。その謎を語り手は知りたく思い、邸の執事から主人の過去を聞く。その過去について好奇心から更に真相を突く止めたく、語り手は逸脱した行為に出る。これが主人の逆鱗に触れ、非難を浴びるに留まらない。身に覚えのない罪を着せられ、以降は語り手は追手から逃れる逃亡者となる。自分の潔白を周囲に納得させたく思うが、相手は尊敬されている地主であり、その主人を裏切った逃亡者の言など聞く者はいない。最後は二つの案があって、どちらが小説として優れているか読者は考えさせられる。

進歩主義者らしく、当時、革命を起こしているフランスに比べイギリスの制度が優れているという世評が高かった時代に、イギリスではこんなに問題があると指摘が度々ある。それにしても本書の登場人物の心の闇の方が、追っかけごっこよりも心に残る。

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