2022年1月9日日曜日

五味康祐『いい音いい音楽』中公文庫 2010

オーディオ好きには懐かしい小説家、五味康祐のオーディオ論、音楽論である。本書の過半を占める「一刀斎オーディオを語る」は読売新聞に昭和533月から5411月まで連載された。五味の絶筆である。翌55年初め亡くなっている。残りは音楽論、オーディオ論である。最後に五味の令嬢による父への思い出の文がある。

この五味の残した最後の連載を読んで驚いた。当時、FM放送は音楽ファンにとって重要な音源であった。多くはエア・チェックと称してFMで放送される音楽をカセットテープに録音していた。そのFM放送と、いかに録音すべきかについて延々と五味は書いているのである。カセットテープへの録音ではない。オープンリールの2トラックを利用した。レコード代を浮かすための録音でもない。バイロイトでのワーグナーの演奏の放送をしていた。その録音である。

しかしそれにしても、最高級品のオーディオ機器を鳴らして、一般人には及びもつかぬ高音質の音楽を聴いていたと思っていた五味が我々と同様、エアチェックである。随分、細かい点までこうすればよいという忠告が書いてある。今では完全に時代遅れで何も役に立たない情報である。懐かしく思う人がいるかもしれないが。拍子抜けするかもしれないし、自分たちと身近に感じられるかもしれない。

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