月丘夢路、美鳩まりが、水島道太郎を巡って当時らしい恋の鞘当てをする、とも言える映画。
神戸の六甲が舞台。小学校が国民学校と改称された当時、水島道太郎は熱血教師ともいえる理想に燃えた教師である。子供たちからは慕われているが、大人からは苦情が出るくらいである。ある児童の父親は子供の評価が下がったと文句を言いに来るが、水島は負けず禿の相手をチャーチルと罵る。当時、禿親爺の悪口がチャーチルだったとわかる。
月丘は女医、また美鳩は水島の恩師の娘で、共に内心では水島を慕っている。二人だけで相手の気持ちを確かめ合う場面がある。もちろん言葉に出さず忖度するのみである。
美鳩の父親は語学教師である。教え子の一人が、美鳩をもらいたいと申し出る。父親は美鳩の意を尊重すると言うが、美鳩は内心困る。
その相手が南方へ赴くようになる。たまたま相手が書いたモンゴル文字の文を美鳩は読み、結婚を決心する。
水島のところへは教育招集が来る。水島と南方へ赴く男の壮行会が開かれる。美鳩は月丘に水島と仲直りするよう説得する(この前に水島と月丘のいさかいの場面があるはずだが、フィルムが欠損している)。しかし言えない。後に水島から手紙が来て、招集が終わったら相談があるとあり、月丘は期待で嬉しくなる。
本映画は戦時中、大映初期の映画として製作、当時は大ヒットしたとか。しかしフィルムが無くなってしまい、数十年後、ソ連が保管している短縮版(元は2時間以上)が見つかり現在はそれが観られる。
一見すると全く戦時中に見えないほど明るい雰囲気の映画である。もちろん時局を表わす言動などは出てくる。しかし例えば女はみんな普通に着物を着ている。戦後、戦時中を舞台にした映画をつくるとみんなモンペをはいているが。実際にその時に作った映画だからこちらが本当である。制作された昭和17年は前年末に真珠湾攻撃が行なわれ、もうこの年のミッドウェイ海戦で日本の海軍は壊滅状態になり、後は敗戦へまっしぐらという時代である。しかし登場人物らは(そして当時の国民も)日本の聖戦を信じていられた時である。明るい雰囲気だったからこそ当時ヒットし、戦争の重苦しさを押し付けることこそあるべき姿と妄信していた軍部はフィルムを抹殺したのかもしれない。
神戸が舞台だが主な登場人物は標準語を喋り、脇役は関西語を喋る。今ならみんな関西語にすると思うが、普遍的な意図の映画なら標準語にしてもいいのではないか。
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