これは昭和24年に起きた松川事件の裁判に著者が関わり、有罪判決の出ていた被告らや現場など訪れ、事件と判決に対して著者の意見を書いたものである。
松川事件は東北本線の福島市の南にある、松川駅の手前で起きた汽車脱線転覆事故である。乗車員の3名が亡くなった。昭和24年8月の出来事で、先月7月に下山総裁怪死事件、三鷹事件が起こり、国鉄に怪奇な事件が相次いで発生したので、戦後史の中でも注目を集めてきた。松川事件では線路を外す工作がされており、犯罪と分かった。捜査の結果、未成年を逮捕し、その供述から東芝と国鉄の労組員が容疑者として逮捕される。25年の第一審では死刑5名を含み20名全員有罪となった。
宇野は知り合いの作家広津和郎らと被告ら、事件の関係者に会い、現場を訪れる。それで第二審判決の直前に、この『世にも不思議な物語』を発表した。宇野は本書で被告らに会い、その眼が澄んでいるので犯罪者ではないと断じている。今読んでも、眼が澄んでいるかどうかだけで、犯罪者であるかどうか判断できないと誰もが思うだろう。実際、当時、マスメディアから散々嘲笑されたという。広津和郎の発表した文も叩かれた。直後に出た第二審では数名無罪が増えたが、やはり死刑その他有罪判決が主であった。最終的には昭和36年に全員無罪の判決が出た。(宇野浩二全集第12巻、中央公論)
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