著者は以前に『古くて素敵なクラシック・レコードたち』(2021)を出しており、その続篇である。著者は前著のまえがきでLPを1万5千枚くらい持っていて、2割がクラシック・レコードだと書いてあった。すると著者所有のクラシックは約3千枚となる。前著で約5百枚挙げていて今回もほぼ同様とすると、前著と今回で所有LPの約三分の一を紹介しているわけになる。挙げられている曲を、こんな曲あるのかという曲、ほとんど親しんでいないが名は知っている曲、おなじみの曲に分けると、クラシック・ファンにとって大部分は最後の分類になるだろう。
前回の本を見てまず驚いたのはベートーヴェンの交響曲第5番、第6番、メンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、リムスキー=コルサコフのシェエラザードなど超有名曲がずらりと並んでいる。ベートーヴェンの交響曲5番など、60年もクラシックを聞いてきたなら、今更の感があり、M・コブラの録音があると聞いて、だったら聞いてみようかというくらいなものだろう。それを何枚もの演奏を挙げ、比較している。ほとほと感心してしまった。昔レコード会社の広告で三大交響曲は田園、悲愴、新世界よりと書いてあった。前著ではこのうち、田園、悲愴を取り上げていた。今回は残りの新世界よりと、「最近では新世界よりも演奏会ではよく取り上げられている」と半世紀前の記事で読んだ8番を挙げている。ともかく前著で取り残した有名曲を選んでいるのこの本である。
どういう音楽を聞いているか、はどの曲を聞いているか、どの演奏を聞いているかに分けられる。著者の関心は後者であったようだ。ベートーヴェンの皇帝のところで、耳にたこができるが取り上げないわけにはいかない、とあって、有名曲の名演を紹介するのが本書の目的らしい。そんなの当たり前で、クラシック・ファンとは演奏比較しか関心のない連中だろうと言われそうだが、自分はどの曲を聞くかに関心があったので。
読んでいて少し気になったのは、バッハの無伴奏ヴァイオリンで世ではシェリングを評価しているが、自分はミルシテインだ、とある。確かにLP時代はシェリングが定盤扱いだったが、今ではAmazonなどを見てもミルシテインの方が評判がいいようだ。(そもそもバッハのこの曲はCD以降、名盤が目白押しなので今なら新録音から選ぶだろう)古くて・・・のLP選だから昔の録音を取り上げるのは当然だが、評価まで古い基準を持ち出さなくていい気がする。
オペラ全曲は今回、モーツァルトとプッチーニを挙げているが、ヴェルディとワーグナーがない。長いからCDで聞いているのかと思った。ともかくこれだけの有名曲をそれぞれについて何枚もの演奏を聴き直し、評を書くとは大変な作業であったと思う。これが一番感心した。
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