増村保造監督、大映、84分、総天然色、出演は船越英二、緑魔子、千石規子の三人だけである。江戸川乱歩の『盲獣』を原作とあるが、乱歩の小説とはかなり違う。主人公が盲人で「触覚芸術」なるものが出てくるのが共通である。原作は主人公が殺人犯で、乱歩の小説の中でもエログロが甚だしく、著者が後に書き換えたのは有名。自分が最初読んだ講談社の全集や角川文庫はこの改作版だった。春陽文庫は元通りで有名だったし、創元推理文庫も元の版である。
さて本映画も原作とは違うとはいえかなり「ひどい」映画である。今なら作れないし、別の意味で当時も、よく作れたものだと思ってしまう。なぜこんな映画を作ったのか。自分の理解は次の通り。製作は昭和44年で、日本映画界はどん底にあった。テレビの普及で映画観客人口は激減、更に作り手本位の「アート」志向の難解な映画は普通の映画ファンも日本映画から遠ざけた。しかし映画は商売だから売れる物を作らなければいけない。それでテレビでは作れようもない、エログロ映画にしたのか。
なお石井輝男監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』も本映画と同じ年の映画である。『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』を昔名画座で見た時、あまりの安っぽい作りに啞然としてしまった。しかし今ではカルト映画と評価されているらしい。本『盲獣』も昔、文芸坐地下か何かで見たが、女体を模した山を這っている場面くらいしか覚えていなかった。今ビデオで見直して、これほど過激な展開だったのかと改めて知った。
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