2021年1月5日火曜日

江川卓『謎とき白痴』新潮選書 1994

 


ドストエフスキーその他ロシヤ文学の翻訳を多く出している江川による『白痴』論である。既に罪と罰やカラマーゾフで既刊がある謎解きシリーズの『白痴』版である。本書もいつもとおり、ロシヤ語でこんな意味があるといった指摘で、単に読んでいるだけでは分からない事柄を教えてくれる。更にこの小説でいつも気になる点、題名の邦訳である。「白痴」と伝統的に訳されているが、元の単語idiotは日常語の馬鹿を含んでおり、漢語の白痴にはない意味がある。それに加え本書は、ロシヤ語では更に聖痴愚の意味もあると指摘する。そうなら書名としてIdiotはふさわしい。元々日本語と西洋語は、一対一に対応していない、特に抽象概念ならそうである。それを正しい訳語がどこかにあると信じている人がいる。原語の意味を知り、伝統的な訳名の裏にそういった概念があると知るべき。単に現在の訳名を変えても、それだけでは原語に近づかない。

0 件のコメント:

コメントを投稿