小説では個人の本名は出てこないが、明らかにモデルがすぐわかる。
ルバショフというかつての党幹部が投獄されている。何度か尋問に呼び出される。隣室の囚人との壁叩きによる意思疎通、彼のかつての幹部時代の回想、尋問でのやり取りが主な内容である。国の目的のためには手段を選ばない、目的のためにはいかなる手段も正当化されるといった発想でいったん反革命者と烙印を押されると、もう自由も場合によっては命も失う。そういった共産主義体制という暗黒社会の恐怖を描いている。
この小説はオーウェルの『1984年』が書かれた1948年よりも早い時期に書かれている。実際のモデルがあるものの、この小説で描かれた社会はその後のソ連をも見通している。実際にケストラーも当初は共産主義に共感していたものの、ソ連の実態に触れて考えを変えたという。
この小説の価値はその後のソ連を予測したと言うより、人間の実態を描いていることであろう。権威による正当化、お墨付きを得られれば、どんなことでも何でも使命感に燃えてやれるのである、やりたいのである。
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