スウェーデンの作家ストリンドベリの処女長篇小説。ストリンドベリは戯曲が有名で『令嬢ジュリー』や『父』『稲妻』『死の舞踏』その他の劇がある。日本では戦前の方が、ストリンドベリは良く読まれていたのではないか。近代劇を先導したのは北欧の作家たちで、ノルウェイのイプセンに次ぎ、ストリンドベリの劇は評価されていた。日本でも戦前から劇団運動が盛んで、ストリンドベリが読まれていたのであろう。大正から昭和初めにその著作は独訳からの重訳で出版されていた。当時は独語読みのストリンドベルヒやストリンドベルクといった表記で出ていた。
さてこの『赤い部屋』は作家として世に出ようと決意したアルヴィッド・ファルクという青年と、その友人仲間たち、またアルヴィッドの兄夫婦という俗物らの生活、当時のスウェーデン社会を描いて、19世紀後半のスウェーデンの描写の一例となっている。ストリンドベリは自然主義と言われており、人生や社会の暗い面を辛辣に書いている。最初の方にそれまでアルヴィッドが勤めていた役所の実態が書いてあるが、まるでカフカの世界だ。そのほかの描写でも19世紀後半のスウェーデンはこんなにひどかったのかと思わせる書き方である。スウェーデンの印象と言ったら今世紀になってから移民などの話題があるが、かつては福祉の充実した先進国といったものだったので、余計驚く。ともかく19世紀のスウェーデンを対象にした文学はあまりないので、本書は貴重であろう。スウェーデンに関心があれば勧めたい。本書の書名「赤い部屋」とは当時のストックホルムに実際にあったカフェの名で、小説にも出てくる。
私的な話になるが、この小説の名を知ったきっかけとなったのは、鈴木清順が監督した『悪太郎』(1963)という映画である。大正時代が舞台であるこの映画の中で『赤い部屋』の訳本が出てきて、和泉雅子らが読んでいる。それで自分も読みたくなり、捜したのだが当然ない。図書館で古い訳本を取り寄せてもらった記憶があるのだが、ろくに読めなかった。今回の新訳で最後まで読めて幸いである。
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