2014年8月12日火曜日

仮装人物

徳田秋声が晩年というか後期に公表した長編小説である。昭和1013年にかけて発表された。
今どき徳田秋声まだ読まれているのであろうか。日本文学史の中での評価はどうなっているのであろうか。もちろん自然主義を代表する作家の一人とは誰でも知っている。しかし今でも大作家として、つまり現在の読者に読まれているかどうかということである。評論家や文学研究者の関心をひいているかの話でない。

若い時、というより中学生の頃徳田秋声の小説を読もうとした。しかし男女の所帯じみたという言葉がそのまま当てはまる、日常生活をダラダラと描くというまさに私小説のイメージそのものの展開に興味がわかず途中で投げ出してしまった。
 

今度読んだ『仮装人物』は秋声のなかでも初期の私小説らしい地味な作風でなく、もっと読み易い部類に入るのだという。それでも作家を、すなわち自分自身を主人公とした自らの体験に基づいた小説である。しかもそれが妻の死後、若い女性とのスキャンダルで当時はかなり騒がれた、今でいう週刊誌ネタになった事件をもとにしている。自分はこのスキャンダル最近知った。相手は作家志望の若い女性で押しかけ弟子、結婚して子供までいるのに作家志望がやみがたく、家庭を放り出して秋声のもとへ転がり込む。女性の弟子志望者が押しかけることは明治以来珍しい話ではないであろう。
ところがこの女性、山田順子(ゆきこ)は類まれな美貌の持ち主だったのである。そのとき秋声の妻が亡くなった時であり、それを狙ってきたのかもしれないが、二人は愛人関係になる。秋声はすでに名を成した大家であり、しかも中年、相手は艶やかな美人であったのでマスメディアがほうっておくわけがなく、散々騒がれたとか。山田は秋声との関係のあと、画家の竹久夢二と関係をもち、その美貌によって世渡りをしていったのである。もちろん作家志望といったが幾つかの小説は書いており、当時は雑誌等に掲載されたのである。これも彼女の美貌を武器にした賜物であろう。ともかくその男性遍歴によって文学史に名を残している女流作家なのである。
この『仮装人物』は秋声が愛人と別れてからその当時を題材にしたものである。以上の事情を知って読んだのでその分興味深く読めたのかもしれない。小説そのものは秋声の作であり大波乱のロマンスではなく、淡々と話が進んでいく。

なお相手の山田順子については吉屋信子の『自伝的女流文壇史』(中公文庫、初出は昭和30年代半ば)に章があり、より詳しくわかる。吉屋信子は少女小説のイメージしかなかったが、この本は取り上げている他の女流作家の評伝も面白く見直した。

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