2025年4月4日金曜日

新井一樹『物語のつくり方』日本実業出版社 2023

題名のとおり物語の作り方を指南しようとする本である。著者はシナリオ・センターというところで講師をしている。それでこの本は講演をそのまま文字にしたような語りになっている。猫なで声の、ですます調で書いてある。正直なところ簡潔に書いてほしかった。どうしても、ですます体では冗長になる。講演ではそれが必要だろう。すぐ声は消えてしまうから冗長な説明の方がいい場合がある。それに対して文章で伝える場合は簡潔で明瞭であるべきである。

また本書には索引がない。こういった何かを説明する場合に索引は絶対必要である。物語を作る際には天地人を明らかにすべしとある。このうち地は舞台、人は人物とはすぐに連想できるが、天はこの本ではどう説明していたかを確かめようとしてもどこに書いてあるか、索引がないのですぐに見つけられない。桃太郎の話を例にとって説明を進めているのだが、桃太郎など面白くない。もっと洋の東西を問わず古典から素材をとった方がいいと思う。それにしてもこの本では有名な劇や小説などの例を例示していない。説明をしてこの作品ではこうやっていますなどとはない。なぜだろう。

更にストーリーでなく人物が重要であると強調している。これはストーリー主導と人物主導の二者択一を迫っているように見えるが、そういう話でなく、人間が描けていないと話が面白くないからである。人間を描いているのが近代小説の特徴である。シェイクスピアの悲劇も性格悲劇と言われるではないか。筋だけでは面白い話にならない。『オセロ』を歌劇化した『オテロ』を馬鹿みたいな話だと言った者がいた。確かに筋だけ聞けば、嘘による嫉妬で殺人を犯すなど馬鹿みたいである。しかしこれはオセロという人物の造形に重きがあるわけで、筋は二の次なのである。ストーリーはパターン化されているとある。装飾の部分が異なるだけで骨格は数種類あるだけである。実際の作成にあたっては起承転結で承の部分を圧倒的に長くすべきだとある。また書く順は転が初め、結が次、それから起承とすべきとある。

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