2026年9月16日水曜日

松本清張『天城越え』 昭和34年

短編集『黒い画集』所収。語り手が三十数年前の少年時代を回顧し、後半は現在(発表当時)が舞台となっている。大正最終年、語り手の少年は下田の鍛冶屋だった家を飛び出し、静岡に勤めている兄を頼うつもりで伊豆半島を北上する。南から天城越えをした。家出は家が面白くなかったからである。途中で商人などに出会う。到底向こうに着けないと悟り、元の道を戻る。

途中で若い女に出会う。少年にはたいそう魅力的に見えた。二人で一緒に歩いていると、土方風の男に会う。女は少年に向こうに行っていろと言い、土方と草叢に消える。後日、土方の死体が見つかった。警察は犯人を捜したが、迷宮入りとなった。この事件の記録を大人になった当時の少年が、今は印刷所に勤めている、読むのである。昔事件を担当した老年になった刑事がやってくる。語り手と会話を交わす。語り手は事件の実際を語る。当時の少年が犯人だったのである。氷室で一晩過ごした方法について、そのトリックの説明がある。

松本清張『紐』 昭和34年

短編集『黒い画集』所収。岡山の津山で神主をやっていた男が儲けを企んで、上京する。しかし考えていた計画はうまくいかなかったらしい。姉の家に泊っていたのだが、行方不明になる。何日経っても消息が分からない。岡山の妻も呼び出す。分からないまま日にちが過ぎ、妻が帰る日に男が見つかった。多摩川の河川敷で、死体となっていた。当時の多摩川の近くは寂しい場所だったようだ。

小説は死体を子供たちが発見するところから始まる。警察の見立ては、他のところで殺し、そののちここへ運んで来たのではないか、というものだった。タクシーその他車関係を調べるが不明である。死体もどこのだれか分からなかったが、新聞で見た姉が弟ではないかと警察に来て確認する。最後に判明する事実は、家族による殺人で、よそで殺して死体を運んで来たのではなく、被害者と妻と義理の兄が鉄道の駅で降り、この寂しい多摩川沿いの場所に来て殺したのだった。動機は高額の生命保険が被害者にかけてあり、受取人が妻となっていたという事実であった。

2026年9月15日火曜日

ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ Joker folie a deux 2024

トッド・フィリップス監督、米、138分。『ジョーカー』の続編。前作で犯罪の限りを尽くしたジョーカーが刑務所に入り、裁判を受ける様を描いている。ジョーカーに恋する女をレディー・ガガが演じる。ジョーカーは裁判でも弁護士を解任し、自分で弁護すると言う。陪審員たちによる評決は有罪、有罪の繰り返しだった。その時、爆破が起こって法廷は破壊される。ジョーカーは恋人と逃げるが、また刑務所に戻る。最後はジョーカーの礼賛者だった他の者にナイフで刺され、倒れる。

2026年9月14日月曜日

松本清張『坂道の家』 昭和34年

短編集『黒い画集』所収。下町で小間物屋を営む中年男は、吝嗇で勤勉でお金を貯めていた。しかしたまたま知り合ったキャバレー勤めの若い女に入れあげ、大金を費消してしまう。女は上辺は従順だが陰には若い男がいて、中年男から金を巻き上げる。男は自分が騙されていたと分かっても女を諦めない。赤坂の坂上にある瀟洒な家まで購入して女に与える。最後には男も金が尽きた。店を飛び出し、女とそこで同居する。

しかし女は口先と違い、いつまでも若い男と陰で付き合っている。とうとう男は殺意を抱き、女を亡き者にしようと考えるが、男の方が先に死んでしまう。それは事故死らしい。そう見えたが、これには氷を使った殺人方法の目くらましがあって、自然死と見せかけたのだった。最後に女と若い男は捕まる。

2026年9月13日日曜日

松本清張『遭難』 昭和33年

短編集『黒い画集』所収。山での遭難を扱った小説。3人の男が鹿島槍ヶ岳に登る。そのうち一人が遭難死する。生き残った者の一人が雑誌に書いた、その体験談から小説は始まる。

書き手は初心者で指導者は山登りに慣れた男、もう一人は幾らか経験がある者。新宿から寝台車に乗ったのは、指導者が初心者に配慮しての措置だった。実際に登り始めると、経験がある筈のもう一人がひどく疲れたように元気がない。天気が悪くなり、指導者は道を間違え、とうとうへたばった男は動けなくなり、最後は死んでしまう。以上の経過が掲載された雑誌を遭難者の姉が読み、指導者のところに連絡してくる。死んだ弟の場所に行きたい、もっとも女の身で登山は無理だから、従兄に行ってもらう、案内を頼めるかと。指導者は承諾する。冬山に登る。

相手は登山に慣れている模様である。遭難した時と同一の経路を辿り、遭難場所に着いた後、相手は指導者に計画して殺したのではないかと問い詰める。遭難者を精神的に疲れさせ、一見親切そうに見えるが、疲れさせる工夫を色々したのではないか。ただ動機が分からないと言う。指導者はクレバスを密に作り、そこに相手が落ち込んでから、動機を教える。自分の妻と密通したからだと。それを列車の中でほのめかしたのでノイローゼになったのだと。相手はクレバスに押し込まれた。木乃伊取りが木乃伊になったわけである。

2026年9月12日土曜日

白い閃光 昭和35年

古川卓己監督、日活、49分、白黒映画。警視庁中庭に白バイが並び、そこから街中に出ていく。時間になっても戻ってこない白バイがある。事故を起こしていたと分かる。スピード違反のダンプカーを追っていたが、急停車されぶつかり、警官は重傷を負った。

この警官の弟が小高雄二で主人公、兄をひどい目に合わせたダンプを警官はもちろんだが、自分も仕事を休んで追う。自分がダンプカーの運転手になって情報を聞きまわる。また小高の恋人、香月美奈子の弟がオートレースに出ており、危険だから辞めさせるよう、香月から頼まれる。弟はオートレースで良い成績をあげていたが、八百長が嫌になり、抵抗したら暴力団から叩きのめされる。小高と香月の諌めを振り切って去る。

小高は探っているうち、怪しい男を見つけ出す。その男がいる採掘の山に行く。そこには香月の弟がいて、男からひどい目に会わされ縛られる。小高は怪しい男が東京に向かうダンプに同乗するが、自分を疑っていると男は気づいていたので、殴られ気絶する。香月の弟は自由になった後、警視庁に電話する。ダンプカーを追って、警視庁のヘリコプター、白バイ隊が繰り出す。気づいた小高は男と格闘し、警官が逮捕する。映画の最後は白バイ隊が列を組んで、絵画館前、道路を行進する場面である。白バイの宣伝映画として警視庁の協力のもと製作された。当時の神風ダンプカーを取り締まる意図があった。

2026年9月11日金曜日

山本有三『はにかみやのクララ』 昭和12年

書名にあるクララとはクララ・バートン(1821~1912)を指す。バートンはアメリカ赤十字の設立者であり、永年看護婦として活動した。これは雑誌『主婦の友』に連載された話で、バートンの生涯を著者がやさしく書いている。バートンの幼児時代から書かれており、幼い頃から少女の時期は、臆病でおくてな子供であったという。それが書名のはにかみやの、になっている。それが兄が重病になった時、看病し回復させた。長じて教師になり、その後、南北戦争の時から戦時の看護婦として活躍し、その後も色んな救援活動をし、またヨーロッパでは普仏戦争の際にも戦時の看護婦として従事した。いずれも先駆的な業績である。

同時期のフローレンス・ナイチンゲールは誰もが知っている有名人であるが、わが国でバートンはどのくらい知られているだろうか。ナイチンゲールに比して、知名度が劣っているのはなぜかよく分からない。今、クララ・バートンでAmazon検索したら、和書は一冊も出ていなかった。もちろん英語の本は多く出ている。山本による本書はそういう意味でも貴重である。