2025年5月10日土曜日

セプルベダ『カモメに飛ぶことを教えた猫』 1996

鴎の一群のうち一羽が海に降りると、原油で海面が覆われ、鴎は体じゅう油でべとべとになる。飛ぼうと思っても油で重くなり、翼を羽ばたかせるのに苦労する。ようやくのこと飛ぶが、力尽きて地面に降りる。

そこに黒猫のゾルバがいて、鴎はゾルバに頼む。卵を産むが自分はもう死ぬ。卵から孵る雛の面倒をみてほしい、飛ぶことを教えて欲しい。こうして鴎は死ぬ。ゾルバは孵った鴎の雛をみんなと一緒に育ててやり、後に飛べるよう励まし、それを叶える。

著者のルイス・セプルベダはチリに1949年に生まれる。クーデターがあり、ドイツのハンブルクに移り住む。この童話も舞台がハンブルクである。(河野万里子訳、白水Uブックス、2019年)

シェイクスピア『アテネのタイモン』 The life of Timon of Athens

執筆年代ははっきりせず17世紀初頭か。主人公であるアテネのタイモンは金持ちで友人知人を宴会に招き、大盤振る舞いをしていた。困った者があれば助けてやり、ともかくみんなのために散財尽くした。

その結果、当然ながら貯金、資産は底をつき、タイモンは文無しになる。金が必要なので、かつて自分が援助した、助けてやった者たちに援助を頼むが、誰一人としてタイモンに手を差し伸べない。タイモンは怒り狂い、人の勝手さ、非情さを呪う。また宴会を催すと言うと知人友人らはやって来る。しかしタイモンは石を投げつけるだけである。人里離れ、隠者のような暮らしの末、タイモンは死ぬ。有名な武人、アルキビアデスもタイモンの友人として登場する。やはりアテネに裏切られた人間としてタイモン側ではある(河合祥一郎訳、角川文庫、令和元年)

2025年5月7日水曜日

隆慶一郎『𠮷原御免状』 昭和59年

主人公は松永誠一郎という、熊本の山中で宮本武蔵の教えを受けたという若者。江戸、吉原に来たのは師からの遺言である。そこで知り合った人々。吉原に本拠をおく侍軍団がいる。柳生家とは敵同士の仲だった。素敵な遊女との出会いがある。

ともかく主人公、誠一郎はスーパーマンのような剣の使い手に留まらない。人間として、男として全く完璧なのである。およそ邪念など微塵もない純粋な心の持ち主である。あまりに理想的に主人公が描かれているので、正直呆れてしまった。これほど理想的な主人公は今まで知らない。

強いて言えば昔読んだ『風と共に去りぬ』のレット・バトラーがものすごく男として魅力的に描かれていたので、心に残った。この小説の主人公、誠一郎はあまりに理想的な男なので、絵空事感を強く感じてしまい、途中で読む気が失せた。

2025年5月6日火曜日

十代 恵子の場合 昭和54年

内藤誠監督、東映、80分、森下愛子主演。森下は高校2年で受験勉強をしている。父親が家を顧みず、家庭内の雰囲気は良くない。誘われて喫茶店に出入りし、そこの不良生徒と知り合いになる。

ある日暴力団が森下に乱暴を働こうとした時、その兄貴分に助けられる。森下はその兄貴と付き合うようになる。兄貴分の元からの恋人から乱暴される。後に兄貴から迫られ関係を持つ。兄貴が森下を連れていると、兄貴のそのまた兄貴に当たる者から目を付けられ、森下は乱暴される。森下は妊娠する。病院で堕ろす。兄貴はそのまた兄貴を切り付け、組から逃げるため、森下を連れて田舎に行く。森下の実家ではやくざが来て隣近所に聞こえがしに怒鳴りつける。森下は逃げた先の田舎でトルコに勤める。また兄貴から薬を注射される。兄貴は一旦東京に帰るが、その際に組の者に殺される。

田舎で待っていた森下は、薬で倒れ、たまたま東京の時に知り合った若い男が居合わせ、助けてもらい薬の治療を受ける。何日かして目が覚め、助けられたと知るが、兄貴が東京で刺されたという新聞記事を目にし、気を失う。後に定時制の高校に復帰したと出て、それで幕。

2025年5月4日日曜日

ラブクラフト『インスマスの影』 The shadow over Innsmouth 1936

語り手は興味本位に、かつて栄えたが今は寂れている町、インスマスに気味の悪いバスで行く。町は多くの建物が廃屋であるようだが、人が住んでいる場所もある。それにしても人影を見ない。見かけるのは奇妙な顔つきの連中である。

古い事情を知っているという酒飲みの老人に酒を振る舞い、聞き出そうとする。昔船長がいて、海に住む住人と契約を交わした。次第に陸の人間も形が変わってくる。老人の話はまともと思えなかったが、この町は確かに異常である。夕方のバスで帰ろうとすると故障で明日にならなければ出ないと言われる。しかたなくホテルにもう一泊する。

夜中に物音が聞こえてくる。何者かが部屋に入ってこようとするのである。語り手は窓から逃げ、どうしたらこの町から出られるか考える。ここの住人たちが語り手を捕えようとしているのである。工夫してからくも逃れる。のちになって語り手は自分があの船長の子孫にあたると知る。

2025年5月3日土曜日

けものみち 昭和40年

須川栄三監督、東宝、140分、白黒映画、池内淳子主演。松本清張の小説の映画化である。

池内は料亭の女中をしていたが、池部良から誘われ、別の仕事をするようになる。その前に病気で寝ている夫が邪魔なので、火事を起こし死なせる。池部の紹介による仕事とは、寝たきりになっている、政治家に多大な影響を及ぼす老人(小沢栄太郎)の世話であった。小林桂樹扮する刑事は池内の夫の死に疑問を抱いている。池内の仕業ではないかと疑う。池内は小沢の庇護のもと、池部を慕っている。小林は池内が関係している小沢についても探ろうとする。しかし小林は小沢側からの手回しで警察を首になる。なおも調べようとしたので、闇に葬り去られる。

小沢が死んだ。これで勢力関係は一変する。池内は何もないまま放り出された格好になる。池部についていくが、風呂に入っているとガソリンをかけられ火あぶりで殺される。

2025年5月2日金曜日

過去のない男 Mies vailla menneisyyttä 2002

アキ・カウリスマキ監督、芬蘭、97分。溶接工をしていた男はならず者たちに殴られ、記憶を失ってしまう。貧しいが親切な一家に助けられる。職安に行っても自分の名前すら思い出せないので相手にされない。救世軍の仕事をするようになる。そこの女と相思の仲になる。

手先が器用な男は捨てられていたジュークボックスを直す。救世軍のバンドにジュークボックスの音楽を聞かせ、色んな音楽を演奏できるようにさせる。これで救世軍バンドは広く聴衆を集め、男はその管理者となる。銀行に行って口座を開こうとした時、銃を持った男が来て銀行から大金を出させる。行員と男は金庫室に閉じ込められる。後に助けられ、話題になる。あの銀行強盗が男をつけて会い、事情を話す。会社の経営をしていたが銀行に口座を差し押さえられ、取り戻しに行ったのだと。元の従業員に払う給料を代わりに渡してくれと男に頼む。男はそれを果たす。

男が巻き込まれた銀行強盗が新聞記事になり、それを読んだ実の妻から連絡がある。そこに戻る。夫婦仲は悪かったと分かる。離婚届が認められたと男に話す。元妻は好きな男と暮らしていた。元妻と男に別れを告げ、元の場所に戻る。救世軍の女と再会する。