短編集『黒い画集』所収。語り手が三十数年前の少年時代を回顧し、後半は現在(発表当時)が舞台となっている。大正最終年、語り手の少年は下田の鍛冶屋だった家を飛び出し、静岡に勤めている兄を頼うつもりで伊豆半島を北上する。南から天城越えをした。家出は家が面白くなかったからである。途中で商人などに出会う。到底向こうに着けないと悟り、元の道を戻る。
途中で若い女に出会う。少年にはたいそう魅力的に見えた。二人で一緒に歩いていると、土方風の男に会う。女は少年に向こうに行っていろと言い、土方と草叢に消える。後日、土方の死体が見つかった。警察は犯人を捜したが、迷宮入りとなった。この事件の記録を大人になった当時の少年が、今は印刷所に勤めている、読むのである。昔事件を担当した老年になった刑事がやってくる。語り手と会話を交わす。語り手は事件の実際を語る。当時の少年が犯人だったのである。氷室で一晩過ごした方法について、そのトリックの説明がある。