2024年11月20日水曜日

散り行く花 Broken Blossoms or The Yellow Man and the Girl 1919

D.W.グリフィス監督、米、74分、無声、リリアン・ギッシュ主演。ギッシュの父親は拳闘選手でいつもギッシュに暴力を振るっている。中国から青年が来る。仏教の教えを広める目的だった。

ある日、ギッシュが粗相すると、いつにもまして父親はギッシュを打擲した。ギッシュは家を出て、たまたま中国青年の店に入ったところで倒れる。中国青年はギッシュを介抱する。以前からギッシュを見かけていて、その美しさに惹かれていた。ギッシュは気づき、青年が世話してくれると知り、こんなに優しくされた経験はないと言う。中国人の2階にギッシュが療養しているとある男が知る。男はギッシュの父親にそれを告げる。父親は拳闘の試合が終わってから、うちに戻りギッシュがいない、教えてもらった中国人宅に行くとギッシュは寝ている。父親は狼藉の限りをつくし部屋を壊し、ギッシュを連れていく。

青年が帰ると部屋は破壊されギッシュはいない。ギッシュの家を知っているので行くとギッシュは虫の息だった。隣の部屋にいた父親が来て、青年に襲い掛かろうとする。青年は拳銃を取り出して撃ち父親は倒れる。青年はギッシュを自分の家に連れ戻す。警官が後に来て父親殺しを捕まえようとする。青年はギッシュを寝台に乗せ、自分も死ぬ。

バオ・ニン『戦争の悲しみ』 1991

バオ・ニンはヴェトナムの小説家で本名はホアン・アウ・フォン、1952年生まれ。『戦争の悲しみ』は1991年に出されたヴェトナム戦争を描いた小説。

ヴェトナム戦争を描いたといっても戦争それ自体を対象とした小説ではない。もちろん戦闘の描写もあるが、戦争が主人公など人々に与えた人生の破壊、恋人との離別、過去の体験が今に及ぼしている苦悩などを時間を行き来する手法で書いている。主人公は小説家で過去の経験を小説にしている。これは作者バオ・ニンが小説の中に現れているかのような印象を与える。作者もヴェトナム戦争で戦った。ヴェトナム戦争が終了してからの時点で小説は始まる。主人公と幼馴染の恋人との恋愛が小説の通底にある。ヴェトナムは戦勝国でありながら人々にこのような悲劇をもたらした。

この小説の評価とは全く別の話だが、日本は前の戦争で敗戦し、日本国、日本人は犯罪者になった。だから例え才能がある人がいたとしても日本ではこのような戦争文学は書けないと思った。(井川一久訳、河出書房)

2024年11月19日火曜日

残雪『暗夜』 2006

残雪は中国の女流作家(1953年生まれ、本名は鄧小華)、本書は短編集で『阿梅、ある太陽の日の愁い』『わたしのあの世界でのことーー友へ』『帰り道』『痕』『不思議な木の家』『世外の桃源』『暗夜』の7編を含む。カフカ的不条理の世界である。

このうち比較的長い『痕』は、題名が主人公の名で、むしろ織をしている。そのむしろを買いにくる不思議な男がいる。痕の村での付き合い、評判が悪くなっていき・・・という話。集の名に選ばれている『暗夜』は語り手が希望していた地に、連れて行ってもらえるようになる。夜出発する。いくら経っても着かない。不思議な体験をする・・・といった話。(世界文学全集 Ⅰ-6、近藤直子訳、河出書房)

2024年11月18日月曜日

連鎖犯罪/逃げられない女 Freeway 1996

マシュー・ブライト監督、米、102分、リース・ウィザースプーン主演。ウィザースプーンは不良少女である。母親が娼婦をしていて義父も犯罪保釈中。警察が客引きしている母を逮捕、更に義父まで連れていかれる。ウィザースプーンは福祉局の担当官をだまし逃げる。その間、ウィザースプーンの恋人である黒人は別の不良に銃で撃ち殺される。

車がエンコし、通りがかった、キーファー・サザーランドに自分の車に乗るように誘われる。不良少年の補導をしていると言う。車の中で話しているうち、嫌なことを聞かれウィザースプーンが抵抗すると、サザーランドの態度は一変し、かみそりで押さえつけられる。サザーランドは娼婦連続殺人の犯人だった。隙を見てウィザースプーンは持ってきた拳銃をサザーランドに突き付け、首を銃で撃つ。後ろから何発も撃ち、殺したかと思ったのだがサザーランドは実はまだ生きていた。後にサザーランド殺人容疑で逮捕、施設に入れられる。そこで暴れ、仲間と一緒に逃げる。

サザーランドについて警察が捜査し、ウィザースプーンが言ったように連続殺人犯だったと突き止める。妻のブルック・シールズは驚きのあまり自殺する。ウィザースプーンは祖母の家に着く。サザーランドは先回りして祖母を殺していた。ウィザースプーンも殺すつもりだった。二人の格闘が続き、最後はサザーランドの首を絞める。刑事二人がやってきて、最終場面ではウィザースプーンと刑事二人がほほ笑む。

2024年11月16日土曜日

身代金 Ransom 1996

ロン・ハワード監督、米、122分、メル・ギブソン主演。航空会社の社長のギブソンの一人息子が攫われる。身代金の要求が来る。FBIの指示に従って金を渡すつもりだったが、引き渡しの現場で現れた男を、空中からヘリコプターでFBIが急に出てきて、撃ち殺してしまう。ギブソンは怒る。

再度犯人から電話があり、金を持って車で行く途中、気が変わる。テレビ局に緊急で出て、犯人に身代金を渡すつもりはない、この金は犯人を捕まえる懸賞金にすると言い出すのである。妻やFBIは金を渡してくれと頼むが聞き入れない。再度声明を出し、懸賞金は2倍にすると言い出す。犯人と電話でお前に金を渡す気はないと言う。電話口に誘拐した息子を呼び出し、犯人は銃をぶっ放す。てっきり息子を殺害したかと思い、夫婦は絶望に陥る。

犯人は逃げ出そうとする仲間たちを銃で殺す。それで誘拐した息子のそばで横たわり、警察が来ると犯人らを殺し息子を助け出したと言う。ギブソン夫妻は息子に再会でき喜ぶ。約束の懸賞金を犯人(刑事だった)が取りに来る。その時息子は犯人と気づき怯える。ギブソンも気づく。犯人は銃を取り出し金を出せと言い、二人で銀行に行く。銀行に行って手続きをしている間、警察やFBIが来る。犯人は逃げ出す。ギブソンは追い、格闘して抑えたかと思ったが相手は脚から銃を取り出し撃とうとするので、ギブソン、FBIとも犯人を撃ち殺す。

2024年11月14日木曜日

中野翠『ウテナさん祝電です』新潮文庫 平成2年


随筆家、中野翠の本で元は昭和59年に出ている。著者にとって2番目の本だそうだが、文庫化されたのは本書が初めてである。

この本は昔、買って読んだのだが、また当時の装丁は異なっていたのだが、久方ぶりに読んで幾つかの箇所は思い出した。著者はこの本を闇から闇へと葬りたい種類の本だと文庫版のまえがきで書いているが、極めて著者らしい文が載っており、著者の本を多く読んだつもりの自分としては代表作にしてもいいのではないかと思った。よく処女作には著作家の凡てが入っているというが、本書もそうではなかろうか。

島田裕巳『宗教消滅』SB選書 2016

現在、宗教がかつてに比べ、人々の生活や意識から非常に薄くなっている。存在感が低下しているのは誰でも気づいているであろう。この実態を日本だけでなく、世界各国の実際、更に既存の伝統ある宗教だけでなく、新興宗教についても調べている。日本で寺院との関わり合いが現在低下しているのは誰でも知っているであろう。これは仏教だけでなく、戦後著しく成長、巨大化した新興宗教についても同様である。数字を挙げて、PL教団、創価学会の他、新興宗教が今如何に信者を減らしているかを述べる。

更に西洋について言えば、観念的にキリスト教が盛んであるかのような印象を抱きがちだが、ヨーロッパのキリスト教の衰退ぶりは半端でない。教会が世俗施設に売りに出されたり、回教のモスクに変わっている例が少なからずある。ヨーロッパに比べキリスト教が強いアメリカでも信者数の低下は見られる。新興宗教が戦後、急速に数を伸ばしたのは高度成長で田舎から都会にやってきた者たちが心情的な絆を求め、宗教の側でも積極的に信者獲得を図ったからである。日本の新興宗教にあたる宗教は世界的に見ればキリスト教のプロテスタントの福音派だそうだ。これは資本主義化が進む各国で数を伸ばしている。しかし急速な経済成長が一段落すれば日本の新興宗教が増えず、減っているように、世界のプロテスタント福音派も数を伸ばせなくなるだろう。