2025年12月20日土曜日

フローべール『ボヴァリー夫人』 Madame Bovary 1856

19世紀の写実主義小説の傑作とされている。医師と結婚したエンマは平凡な結婚生活に飽き足らず、凡庸な夫を憎み、ロマンスに憧れる。最初住んでいた田舎に飽き足らなく、ルーアンの近くに引越しする。そこで村の書記と恋愛関係になる。書記は逃げてしまい、後にプレイボーイの男と恋愛関係になる。商人からの売り込みで、多くの商品を買う。それで首が回らなくなり、情人らに金策を頼んでも全く協力してくれない。最後に薬を飲んで自殺する。人妻が不倫をし、最後は破滅すると要約すれば『アンナ・カレーニナ』と同じである。

この小説を書くのに、フローベールが非常に苦労したとか、自由間接話法なる手法で書かれているとか、そういった作り手側からの話はよく聞くが、読んで面白い小説だと思うだろうか。自分は何度読んでも面白く思えないのである。

2025年12月19日金曜日

猟人日記 昭和39年

中平康監督、日活、123分、白黒映画。戸川昌子の原作で本人も出演している。中谷昇はプレーボーイで何人もの女を物にしていた。ところが自分が関係した女が殺される。一人だけでなく、次々と殺され、自分の持ち物が現場に証拠品として残っている。逮捕され死刑判決を受ける。

弁護士とその助手(十朱幸代)が自分の謎を解いていくのが後半の筋である。ある女が画策して中谷を罠に陥れていると分かる。それは何者か。最初の被害者の姉かと思ったら、意外な人物が犯人と最後に分かる。中谷は猟人日記として自分の女漁りを日記につけていた。それが盗まれ、発見された時は最初のページが破られていた。それを知った中谷は控訴を取り下げる。そこには自分の妻(戸川役)のことが書いてあった。妻は以前出産で奇形児を産んでいた。それ以来夫婦の仲は冷え、猟人日記を読んで夫の相手になった女を殺し、夫に罪をかぶせるつもりで犯罪をしていた。中谷は釈放され、以前殺された女の産んだ赤ん坊がいると聞かされ、将来に希望が持てるようになる。

2025年12月18日木曜日

一寸法師 昭和30年

内川清一郎監督、新東宝、82分、白黒映画。乱歩の原作では浅草公園となっているところを撮影当時の渋谷に変更。それ以外はわりと原作を尊重している映画ではなかろうか。

宇津井健が原作の好奇心の強い青年、小林紋三(少年探偵団の小林少年ではない)を演じ、探偵は旗とかいって二本柳寛がしている。夫人は三浦光子で、その娘と女中の二役を三橋達也と結婚した安西郷子が演じる。安西郷子の出ている映画はあまり見られないので貴重。一寸法師役は実際の小人で、サンドイッチマンをしていた者がやっている。

2025年12月17日水曜日

浴槽の死美人 昭和31年

野口博志監督、日活、78分、白黒映画。河津清三郎扮する探偵シリーズの一作。スキー場にあるホテルに助手の女子と来た河津は、足をくじき静養していると女の訪問を受ける。河津が探偵と知っての相談で、宝石商の父とこのホテルに来ているが、何やら違法な取引のおそれがあると。

このホテルに来た客の幾多りかは真珠を持ってきており、それはかつて偶然手に入れたのだが、それを奪い返そうとする悪人に狙われている。夫婦で来た妻の方は浴室で殺されていた。また女助手は友人に出会うが、その友人もやはり真珠を持っていたのだった。ホテルの使用人なども悪漢一味の一人であり、最後は雪原で銃の撃ち合いをやる。戦後15年くらいまで犯罪映画では銃撃戦はよくあった。戦争がまだ最近の時代だったからか。

2025年12月16日火曜日

松川事件 昭和36年

山本薩夫監督、162分、白黒映画。松川事件の高裁判決までを描く。昭和24年8月17日に東北本線、福島県松川駅手前で起きた列車の脱線転覆事故に関して、元国鉄職員の19歳の男がまず容疑者として逮捕され、その自白を元に次々と全員で20名の者が逮捕された。

映画はまず事故のニュース映像より始まる。容疑者の19歳少年が逮捕され、警察に拷問で自白を強要される様を描く。更に仲間がいただろうとこれまた自白の強要が続き、多くの者が逮捕される。裁判は第1審、第2審ともありのままの裁判の記録のごとく、かなり長く撮影されている。出演者は弁護士、警察などは有名な俳優がやっているが、被告側は無名の俳優たちである。また被告の実名を使っている。まだ最終的な判決の前で撮影された映画である。

2025年12月15日月曜日

小峰隆夫他『エコノミストの戦後史』日本経済新聞出版社 2013

日本経済研究センターが1963年に出来て50年経ったので、その歩みを振り返り、今後のあり方を考えるための出版である。現在日経センターに関わっている担当者たちが、過去に日経センターを導いてきた、参加して人たちにインタビューを行った記録である。過去の大物エコノミスト、経済学者による回想はそれだけで価値がある。しかしながら、現在の日経センターとしては今後、センターをどうしていくか、が最大の関心事であったと思う。この問題に十分なヒントが得られたであろうか。

このうち、浜田宏一と聞き手である岡崎哲二、寺西重郎とのインタビューでは結構議論をしている。大体この人の価値観、イデオロギーはこうだと、それで分類して分かったつもりになっている場合がある。このインタビューはどちらに組するにしても、経済学の知見が必要な議論をしている。ともかく双方の経済学的検討がまず最初にくる。

また日銀にいた鈴木淑夫(懐かしい名)が、バブル崩壊後の長い不景気は、橋本内閣の消費税引上げが原因で、あれがなければもっと早く良くなっていたと言っている。消費税引上げの悪影響は良く言われるが、実際に分析してどの程度数量的に、失われた20年か30年に寄与しているのか、自分は知らないが、これは当然どこかでやっているだろう。それを元に議論すべきである。また小泉内閣によって格差が進んだという話も当然のようにされているが、随分前の話になるが、小泉行革でどの程度格差が進んだかのまともな分析はされていない、と聞いた。今ではどこかでやっているだろうから、それによって定量的に議論すべきであって、多数意見だからと言ってそれに寄りかかっていてはだめだろう。

2025年12月14日日曜日

セルギー神父 1911

若い士官は将来が嘱望されていた。しかし婚約したものの、それを中止し退官する。婚約者が実は皇帝の情人をしていたと知ったからである。その後は修道院に入る。ここでも精進し、高く評価される。しかし修道院の実際は世俗と同様、野望だけの人間の集まりに過ぎないと知る。反抗的な態度に出たため、上の者に忌避され僻地の場所に行かされる。

ここでも聖人とされるほどの評価を受ける。厳格な生活を送っていたので、ある軽薄な婦人が尋ねてきて誘惑する。誘惑に負けまいと自分の指を切って会う。婦人は驚愕し逃げる。病気を治す力があるとされ、多くの者が治癒を祈願に訪れる。ある日、自分の娘の病気を治してほしいとやってきた男の娘に会う。その時に女を抱いてしまう。恐れ慄き、そこから逃げる。

自分の幼馴染みの不幸な女を思い出す。女の家に行く。女は亭主などに苦労させられ、惨めな生活を送っていた。しかし幼馴染に会い、女の生活こそ真の神に仕える道と理解する。後は巡礼の札を持っていないためシベリアに送られ、そこで暮らす。(ポケットマスターピース、集英社文庫、2016)